掌上の種 萩原 朔太郎
われは手のうへに
いま白きじようろもて土に水をそそぎしに、
水はせんせんとふりそそぎ、
ああ、とほく五月の窓をおしひらきて、
われは手を日光のほとりにさしのべしが、
さわやかなる風景の中にしあれば、
皮膚はかぐはしくぬくもりきたり、
手のうへの種はいとほしげにも
「いのち」それは
生き物にひとつずつ与えられた
不思議な何か
それは「いのち」としか言いようがない
いとほしげに呼吸づける掌上の種のように
「いのち」は生きている
今日もせんせんと水を降り注いでやりたい
2023.08.18